夜は晩酌、休日にはバーベキューなど、日本人は比較的お酒を飲む人が多い気がします。
なかには記憶がなくなるまで飲む人、物や人に危害を与えてしまう人、飲み過ぎて体を壊してしまう人など良いことばかりではないのも確かです。
肝性脳症は肝硬変の合併症のひとつ
ウイルス、アルコール、脂肪肝、薬剤、自己免疫などの原因によって起こった炎症を放置していると、肝臓の細胞の破壊と再生が繰り返されて「かさぶた」のような硬い状態になります。
この硬くなった状態が「肝硬変」なのですが、肝硬変になると肝機能が低下したり、肝臓を迂回する血液の流れ(シャント)ができてしまい「肝性脳症」をはじめとする、様々な合併症があらわれます。そして肝ガンになる場合もあります。
肝硬変にともなう合併症
①出血傾向(血液が止まりにくくなる)
②黄疸(皮膚などの一部が黄色に変色する)
③胃食道静脈瘤(本来、肝臓に流れるはずの血液が胃や食道の静脈へ流れ込み、静脈が太く浮き上がってくる)
④腹水(お腹に水がたまる)
⑤肝性脳症
肝性脳症の原因はアンモニア
体内のアンモニアは一部の腸内細菌が、食物中のタンパク質を分解することで産生されます。腸内で産生されたアンモニアは体内に吸収されますが、通常は肝臓で解毒がされます。
しかし肝硬変により肝機能が低下したり、肝臓を迂回する血液の流れ(シャント)ができると、解毒が不十分になって血液中にアンモニアが増加してしまいます。この増加したアンモニアが脳まで達してしまうと「肝性脳症」を引き起こしてしまいます。
様々な症状がでる肝性脳症
肝性脳症になると、様々な症状が現れます。気づきにくい軽度の状態から、意識を失ってしまう昏睡まで、程度(昏睡度)に応じてⅠ~Ⅴの5つに分類されます。
<昏睡度Ⅰ>
・昼夜リズムの逆転
・状況に合わない過度な幸福感
・だらしなく気にとめない態度
<昏睡度Ⅱ>
・時間、場所がわからなくなる
・物の取り違え
・異常行動(例:お金をまく、必要なものをゴミ箱に捨てる)
・眠りに陥りがちで、うとうとしている(普通の呼び掛けで目を開け会話ができる)
・医師の指示には一応したがう
・羽ばたき振戦がみられる
<昏睡度Ⅲ>
・興奮状態または意識混濁
・幻覚などの状態をともなう反抗的態度
・ほとんど眠っている
・刺激で目を開けるが、医師の指示にしたがわない、もしくはしたがえない
・羽ばたき振戦がみられる
<昏睡度Ⅳ>
・昏睡(完全な意識の消失)
・痛み刺激に反応
<昏睡度Ⅴ>
・深い昏睡
・痛み刺激に反応しない
肝性脳症の診断方法
肝性脳症では「認知症」や「うつ病」などに似た症状が現れることがあります。症状だけでなく、血液中のアンモニア濃度や診断テストなどを行い、それらの結果をあわせて診断されます。
羽ばたき振戦テスト
ナンバーコネクションテスト
ランダムに配置された数字をつなぎあわせ、かかった時間を測定します。
肝性脳症の治療
肝性脳症の治療は、薬により体内でのアンモニアの産生や吸収を減らしたり、解毒を促進することが主体となります。症状に応じてこれらの薬は、いくつか組み合わせて使用される場合があります。
・合成二糖類・・・腸内のアンモニアの産生と吸収を減らし便秘を促進
・難吸収性抗菌薬・・・腸内のアンモニア産生細菌に作用して、アンモニアの産生を減らす
・BCAA製剤(分岐鎖アミノ酸製剤)・・・アンモニアの解毒に必要なアミノ酸などを補うとともに、体内のアミノ酸のバランスを補正する
アンモニアの解毒を促進するカルニチンや亜鉛が不足している場合には、カルニチン製剤や亜鉛製剤が処方される場合もあります。
肝性脳症の早期発見と再発予防
肝性脳症は、早期に発見して治療することが大切になります。症状が出ていても自分では自覚できないことも多いので、一緒に住んでいる家族からの情報も重要になります。
日常生活において気になる症状がある場合には、主治医もしくは専門医に相談しましょう。
⬜頭がぼーっとする ⬜目つきがおかしい ⬜足がつまづく
⬜意味不明なことを言う ⬜手が震える ⬜同じことを繰り返し聞く
⬜箸が持てない ⬜食事をとらない ⬜字が下手になった
⬜物忘れをする ⬜怒りっぽくなった ⬜意識がもうろうとしている
⬜口からアンモニア臭(甘酸っぱい独特な臭い)がする
肝臓の病気に対する助成制度
肝硬変など肝臓の病気は「身体障害者手帳」の対象になっています。肝臓の病気では、その障害の程度に応じて1~4等級に分けられていて、「肝性脳症」は1、2等級の認定基準の1つに含まれています。身体障害者手帳の申請ができるかについては、まず主治医等に相談します。
身体障害者手帳が交付されると、その等級に応じて各種の福祉サービスを受けることができます。肝性脳症などの病気の治療費などに対する助成も受けれることもあります。肝性脳症の助成についての問い合わせは、自分の住んでいる自治体窓口になります。
例)内部障害1級の場合
住宅・・・住環境整備の助成、市営・県営住宅への入居優遇
医療・・・重度障害者医療費の援助
外出を支援するサービス・・・運賃の割引(JR、私鉄、バス、地下鉄等)
税金・公共料金等・・・所得税の障害者控除